納税を前向きにとらえるコツ

…大切な会社に利益を与える喜びを重視しましょう。

経営者にとって税金とはどういうものでしょうか。安心安全な社会システムの維持発展に必要なものだと頭では分かっていても、いざ納付書の金額を見ると「・・・」というのが心情ではないでしょうか。

  • 高すぎる。なぜこんなに払わなくてはならないのか。
  • どうせ政治家に無駄遣いされるだけだ。
  • 払ってしまったら資金繰りが厳しくなる。

思うところはたくさんありますが、法律に則って会社経営を行う以上、残念ながら納税から逃れることはできません。節税にも限界があります。そうであれば、納税を少しでも前向きに捉えられた方が幸せです。困難な課題ではありますが、「利益」がヒントになるかもしれません。

会社は利益を栄養素としています。利益を与えなければ会社は弱り、最後は死んでしまいます。経営者にとって自分の会社はかけがえのない存在でしょう。絶対に死なせたくないはずです。人間が生きていくには食事が必要なように会社には利益が必要です。

利益を与えれば与えるほど、会社は大きく健康に育ちます。会社の健康度合は貸借対照表の自己資本を見れば分かります。自己資本とは資本金と累積利益の合計です。自己資本が多ければ多いほど体力があります。資本金が1円で生まれてくる会社もあれば1億円の会社もあります。生まれながらにして会社の基礎体力は違いますが、利益という栄養素を与えることで体力は強化できます。

全ての経営者が会社を大きく健康に育てたいと考えているはずですが、実際には最低限の利益しか会社に与えない経営者も多くおられます。理由のひとつとして利益は税金との交換でしか手に入らないためです。本当は利益を出せるのに税金を払いたくないというメンタルが利益を最小限にとどめてしまいます。

頑張って稼いだ利益が納税で半分近く減ってしまう喪失感は言葉に出来ません。利益をあげようという意欲を失うのも理解できます。しかし、かけがえのない会社のことを思うならば、税金を払いたくないという思いよりも、大切な会社に利益を与えられる喜びを重視してはいかがでしょうか。

稲盛和夫先生も「稲盛和夫経営講演選集 第3巻 成長発展の経営戦略」の中で、京セラが高収益企業になった理由のひとつとして次のようにおっしゃっておられます。

300万円の税引前利益が出て、そこから半分税金がとられる。私もそれが惜しいと思い、「国というのは、時代劇に出てくる悪代官みたいなものだ。みんなが怒るのも無理はない。われわれ庶民を痛めつけて税金をむしりとる。けしからん」と憤ったぐらいです。ですから、税金をとられるのはもったいないので、ごまかして脱税しようと考える人も出てきます。

あるいは、「汗水たらしてがんばったのに、何の手伝いもしてくれなかった国に150万円もとられるぐらいなら自分で使ってしまおう。300万円も利益が出たから半分とられる。だったら、利益を減らせばよい。それだけの余裕があるのだから使ってしまおう。交際費で使うとか、従業員に臨時ボーナスでも出して、自分も経営者として少しもらう。山分けをして利益を減らそう」と考えるわけです。

この場合、最初の魂胆は、とられる税金が惜しいので、それを減らそうという発想だったのですが、それは期せずして低収益を望んでいることになるわけです。本当は、税金がけしからんから、税金から逃げようとしているだけで、決して低収益を望んでいるわけではありません。しかし結果として、そのメンタリティが、自分から望んで「低収益のほうが結構だ」という考えに結びついているわけです。

私は借金を返そうと思ったものですから、脱税しようともしなかったし、山分けをしようとも思わなかったのです。さらに収益性をあげて、10%の売上利益率だったものを、20%にしよう。そうして税引後に300万円残るようにしよう。そうすれば三年間で借金が返せるではないかと、素朴にそう考えたのです。

そのときは「高収益を目指そう」とは思っていませんでしたが、とにかく、税金も全部払った残りが300万円必要だと思ったからこそ、自然に「高収益」企業へと舵をとったわけです。つまり、「借金を返すためには、高収益でなければならない」と自分なりに考えたことが高収益企業への始まりだったのです。